「余白の音」に耳を澄ませて。

珈琲とからだ、ときどき言葉

同じ味わいに仕上げること

例えば「同じ煎り止め温度、同じ焙煎時間であっても、途中経過が異なれば、同じ味わいにはなり得ません。」には、焙煎している人間として納得感があります。途中経過が違うんだからそりゃそうよねって。そして「それは煎り止めだけの話ではなく、例えばYellowingでの温度と経過時間が同じであっても、そこまでの経過が異なれば同じ味わいにはなりません。」も確かにそうだというふうに思います。これを細分化していくと「投入から1秒ごとの温度変化が同じでなければ、同じ味わいにはなり得ない」という理屈が成り立つことに気がつきます。

逆に言えば、温度曲線が同じであれば、同じ味わいになるということですが、それよりもむしろ、同じにならねーじゃねーかって経験の方が豊富です。「同じ焙煎機を使っていても、個体差があるから同じように焼いても同じ味にはならない。」焙煎を始めたころ、いろんなところでこういう話を聞きました。同じにならない経験を沢山していたのでボクも常識としてそう思っていました。


だけど、やっぱり最初の理屈は正しいと思うんですよね…。
ボクには目標とするコーヒー豆があるので、それに近づこうといろいろ考えながら焙煎をしてきました。焙煎を始めてから7年。正直言って、一度も同じプロファイルで焼いたことがありません。前回よりも良くしようと、少しでも改善させようと、いろいろな変更を常に加えてきたからです。そして、あまりにもでたらめな結果に、最近うんざりしてます。科学実験では、入力に対する反応(出力)の傾向からブラックボックスを解析していくわけですが、あまりにもその傾向がなさ過ぎて、焙煎機におちょくられている気分です。

あまりにも長い期間、思いつく限りの手を試してもその傾向がつかめず、モチベーションもだだ下がりの状態なので、不本意ながら「同じに味にする」というところに目を向けざるを得なくなりました。いやそもそも自分が良いと思ってもいないカップを再現できても意味がないだろっていう声が頭に響きますが、この7年、唯一手を出していない領域なので仕方なく。


ただ有り難いことに、実際に「同じにする」を意識すると、いろいろ考えなくてはいけないところが見えてきました。とにかく同じだと思えることをやってみました。投入温度から初期火力、ダンパ操作や操作するタイミングなど、すべてを合わせて焼いてみました。まぁ当然のごとく温度曲線が合いません。ええ、わかってましたよ、7年前から。

7年前はここで立ち止まってしまいましたが、問題はここからです。焼き方を同じにするわけですから、初期設定や操作はすべて同じにします。そのうえで、温度曲線が同じになるためにはどうしたらいいか。焙煎中は決められたことしかできませんので、調整できるのは投入前のインターバルだけです。

これまでインターバルは、同じであればいいと思っていました。毎回毎回どんなときでも同じインターバルを取っていました。が、それが適切であるかどうかは考えもしませんでした。何をもって適切とするのか…。どう変えればいいのか…。同じ温度曲線になるようにと考えれば、自然とインターバルの取り方も決まってきます。単純なのは、ペースが早すぎるのであればインターバルを長く、遅すぎるのであれば短くとればいい。同じ生豆で、同じバッチサイズで、同じ操作で焙煎して、同じ温度曲線を描けたなら、そのインターバルの取り方は適切だったと言えると思いました。

ただ現状取り組んでいるのは、3バッチ目以降に焙煎したものを2バッチ目と同じプロファイルにすることだけです。1バッチ目と2バッチ目は合いませんでした。どうやっても。何でこんなことが起きるのかわからないのですけど、これは火力を落としていかないと同じになりそうもないなーという印象です。でも今は、とにかく2バッチ目以降だったらまったく同じように焼けるようにすることを目指します。

ちなみに直近で2,3バッチ目のプロファイルをほぼ同じ曲線にできました。誤差1℃未満で推移したバッチは味わい的にもほとんど同じでした。まだこれからエイジングしながら観察は必要ですが、同じプロファイルならある程度同じ味わいにはなりそうです。同じ生豆で、同じバッチサイズで、同じ操作で焙煎して、温度曲線が同じになったということは、生豆投入直前の焙煎機の状態を同じにすることができたということになります。

ここに至り、おちょくられていた理由がわかりました。
これまでのやり方では、下のようなバッチを並べてカッピングしていました。
 A.あるプロファイルで焼いたバッチ
 B.Aと同じプロファイルで焼いたバッチ
 C.Aと同じプロファイルに、ダンパ操作を加えたバッチ
AとBの曲線も味わいも違う状況で、AとCの違いがダンパ操作によるものだと言えない。にも関わらず、そうだと理解していたのですから翻弄されるのは当たり前の話でした。同じ味わいに焼けるようになって初めて、「ちょっと火力を落としてみる」という操作によって生まれた味わいの変化を比較できるんだと。


このやり方を俯瞰してみると少し道のりが長いことが分かりました。
現状、2バッチ目以降を合わせよう計画で、これは純粋にインターバルの取り方で解決しそうです。そしていずれは1バッチ目と2バッチ目を合わせられるようになりたいのですが、ここには同じ操作にしてたら同じにならんけど問題があるので、操作の仕方を変えても同じ味わいになるのかどうか…全く見えないので厄介かと。
そして次は日をまたいだプロファイルの再現です。こちらは暖機の仕方が問題となりますし、変数が増えるので検証に時間がかかります。天気、気温、湿度、暖機するときのガス圧と暖機時間、だけでなく一番厄介なのは常温時の生豆温度です。真夏と真冬で20℃近い差がありますから、同じプロファイルってできるんでしょうか…。
ただ、こうやって長い時間をかけて同じプロファイルを焼き続けて、操作と味わいがリンクし、少しずつプロファイル自体を変えていけるということなのかもしれません。