「余白の音」に耳を澄ませて。

珈琲とからだ、ときどき言葉

蓄熱とは一体なんだろうか

スキレットやロッジと中華鍋の違いは一体なんなんだろうか。

パッと思いつくのは、熱容量(比熱×重量)の違いである。
スキレットやロッジの方が熱容量が大きい。

比熱の特性を引き継いでいるから、熱容量が大きいほど熱しにくく冷めにくい。

つまり、温度変化のしにくさを表している。


一方、素材に熱を与えるためには温度差を作らないといけない。

温度が同じ物体同士では、熱の移動は起こらないためだ。


さらに、自然発火とは、局所的に与えられた熱量が拡散せずに留まることで、
素材の発火温度を超えてしまい、発火に至る。

これは熱伝導率の問題だけど、拡散速度を超えて熱量が供給されても
同じ問題が起こると思う。


これらのことから、瞬間的に温度を高められる中華鍋は、
素材に対して大きな熱量を瞬間的に与えることができ、
それが素材を痛める温度を超えてしまうことで、
「焦げ」という症状を引き起こすのだと考えられる。

バーナーの変化がダイレクトに食材に伝わってしまい、
火力操作および釜の温度制御がシビアであると言える。

板厚が薄い釜の場合、バーナー操作に繊細さが必要になるし、
バッチサイズは大きくできないんじゃないかと思う。

中華鍋でハンバーグを焼くと水分が出てしまって上手く焼けないし、
スキレットでチャーハンをやるとべちゃべちゃになってしまって上手くいかない。
そういう向き不向きは、こういう理屈でできているのかなと思った。




焙煎を初めてすでに7年目を迎えたが、これまでずっと温度曲線やガス圧、
ダンパをどのようにすれば、思い通りの焼きになるのだろうかと考えてきた。

ここ最近、1バッチ目と2バッチ目の味わいを合わせられるようにしようとか、
適切なインターバルを取れるようにしようとかしていたことで、
温度曲線の投入以前、プロファイルの左側に目を向けるようになった。

確かにこれまで上手くいかなかった原因が、
プロファイルには映らない温度曲線の左側にあるのかもしれないと考えると、
うんざりしかけてたやる気が少し顔を上げてくれる。

適切な暖機とは一体何だろうか。
適切なインターバルとは一体何だろうか。
何をもって適切だと判断するのか。

最初は1バッチ目と2バッチ目が同じ味わになるような
暖機やインターバルを適切と呼ぼうと思ってた。

どんなプロファイルであっても1バッチ目って、透明感が深い。

だのに、2バッチ目になるとそれが消える。
プロファイルがどんなにトレースできていてもだ。

こうなると、温度が高いからとか温度が低いからという話では説明できない。

バッチサイズを250gから80gに下げてやってみても同じで
変わりがなかったから、火力が足りないって話でもない。

うんざり、再び…。って思ってて、ひとつアイディアが閃いた。
熱平衡で焙煎したらいいんじゃないかって。

例えば、ガス圧0.6kpaで暖機していると、ある温度で上昇が止まる。

それは釜に対する加熱と釜からの放熱がトントンの
熱収支がゼロの状態になったからだ。

(沸騰してるお湯と同じ状況かな)

これを熱平衡と呼ぶわけだけど、ここに生豆をぶっこんでみると、
当然熱収支がマイナスになって釜の温度が下がる。

が、即座に、バーナーからの熱量がそれを熱平衡へ押し返そうとする。

この押し返す分の熱量で豆を焼けるんじゃないかなーって思ったのだ。

(沸騰したお湯にブロッコリーを入れるようなもんかな)

もともと平衡だった状態から生豆が吸熱し、釜から熱を奪う。
即座に、バーナーから供給された熱量がそれを補う。

これは熱平衡の周辺で行われる動きなので、
大きな温度変化は伴わないと思われる。

さらにバッチサイズを小さくすれば吸熱量が減るので、
より釜の温度変動が小さくなるはずである。



この熱平衡というアイディアであれば、
1バッチ目の透明感を説明できるんじゃないかなって思った。

温度が高いからとか低いからでは説明できないけど、
釜の温度が、熱平衡から上昇もしくは下降しながら焙煎してしまうと、
透明感がなくなってしまうと説明できたら素敵だなぁーっと思う。



のだけど、ここ最近、気温が低くなってる。

「熱収支」というくらいだから、熱支出が変動すると、なかなか困る。

そして投入前の生豆の温度も5℃下落してる。

吸熱量が変動されると釜の温度変化も大きくなるから、検証する身としてはつらい。

焙煎室にエアコンが欲しいなぁという感じ。

環境要因で未だに確信は得られていないけど、アイディアとしては面白いと思う。


ここ最近は、7分前後で煎り止めてる。

投入してから一切触らないし、気にするのは爆ぜてからの時間だけ。

水抜きとかメイラードとか考えなくなった。

豆は勝手に焼けていく。そのおぜん立てをすればいい。環境を整えてやればいい。

そんな感じで焙煎できたらいいなぁと、いまは思う。