「余白の音」に耳を澄ませて。

珈琲とからだ、ときどき言葉

コーヒーの抽出…

ボクにしては珍しく抽出の話。
バーに立たなくなって早数年経つが、抽出について理解が深まったのはむしろバーから離れてからだった。そして昨年、エスプレッソトレーニングの依頼を受けてから、だいたい理屈が固まった感があった。

面白かったのは、エアロプレスとデルタコーヒープレスの比較だ。使用するコーヒー豆、挽き目、粉量、湯量、抽出時間、使用するペーパーまですべて同じにして抽出ができる。

出来上がったコーヒーの味わいの違いは、とても面白い違いになった。特筆すべきはデルタコーヒープレスの質感の良さだ。持っている人はすでに実感していると思うが、コーヒーがトゥルントゥルンになる。赤ちゃんのほっぺかって思うほどなめらか。ゆえに(?)甘さも感じる。

抽出器具のレビューをしているサイトをのぞいてみると、ペーパーの違いがそれを生んでいると説明しているものもあった。

しかし今回の実験では、すべて同じものを使っている。にもかかわらず、これだけ明確な違いが生まれてしまうのは、なぜなんだろうか。

エアロプレスは浸漬式で、デルタコーヒープレスは透過式なので、この抽出原理の違いが味わいの違いを生んでいることは明白だが、抽出原理の違いとは?

それは抽出比率(Brew Ratio)の違いである。それもまさに抽出が行われているときの抽出比率(Brew Ratio)である。

例えば、レシピで16倍に設定していたとすると、エアロプレスで抽出中の抽出比率(Brew Ratio)は間違いなく16倍だろう。一方、デルタコーヒープレスの抽出中の抽出比率(Brew Ratio)はどうだろうか…。どう考えても1倍以下だ。

この抽出比率(Brew Ratio)の違いによって、味わいが明確に変わってくる。抽出比率(Brew Ratio)が高いエアロプレスの場合、平衡状態になるまでに時間を要するため、成分の拡散が止まらないわけだ。その一方で、比率の低いデルタコーヒープレスの場合、ちょっと成分が出たら平衡状態になる。

この違いを少し想像してみると、おそらくデルタコーヒープレスの場合、分子量の小さい成分から拡散されていくんじゃないかって思う。成分がちょっと出たら平衡になる状況で、分子量が小さく移動しやすい酸味成分を差し置いて分子量の重い甘さや苦味が出てこれるとは思えないからだ。そうなると分子量の小さい成分からお湯に回収されていくと言える。それがエアロプレスになると、一向に拡散させようとする力が衰えないわけだから、酸味と同時に甘さや苦味が引き抜かれていくんじゃないだろうか。万遍なく引き抜いてくるというか。

もしこういう構成になっているのだとすると、エアロプレスはサラサラと軽く複雑な味わいを感じ、デルタコーヒープレスはトロっと重く飲みごたえのある味わいになるのも理解できる。抽出されたコーヒーの液体の温度がどちらも同じだとすれば、成分構成的に揮発しやすいエアロプレスの方が香りを感じやすいと言える。また、チャネリングも含めエスプレッソの抽出速度による違い、ドリップの注湯速度による違いも同様の理由だろう。

うまく調整すると、エアロプレスとデルタコーヒープレスの濃度や収率を同じにすることもできるけど、そういった数値が同じでも味わいが違うよねっていうのがわかる面白い実験でもある。まぁ、そもそも収率は計算値であって要は平均値なので、分散値を考慮せずにはいられず、平均値が同じでも分散値が違うことによって、味わいが違ってしまうから、数値が同じであることは同じであること以外に意味を持たないんだけど…。閑話休題

抽出比率(Brew Ratio)の影響は大きくて、味わいを決める要素のようだ。それを確認する実験があって、もし同じ大きさのカップが9つある人はやってみてほしい。

挽き目は、① いつもの挽き目、② ①から2メモリ粗くしたもの、③ ①から2メモリ細かくしたものの3種類。そして、抽出比率(Brew Ratio)もA.14倍、B.16倍、C.18倍の3種類用意する。これらの組み合わせで9つのカップが出来上がるので、それぞれをカッピングして、(濃度の差はさておき)味わいが似通っているものをグルーピングしてほしい。

ボクがやったときは、抽出比率(Brew Ratio)が同じものは、挽き目が何であっても同じような味わいになっていた。それまでのエスプレッソの経験上、挽き目が異なれば味わいが大きく変化するもんだと思っていたが、挽き目の影響は味わいの構成よりも濃度感の方が大きいみたいだ。一方で、エスプレッソの抽出のときに気軽に抽出量をいじってしまうほどに大したことのないものだと思っていた抽出比率(Brew Ratio)が、味わいの構成を決める重要なパラメータであるとは驚き桃の木山椒の木。そうなると、ドリップの難しさは、抽出比率のコントロールな気がしてくる。湯数の調整は、抽出比率(Brew Ratio)のコントロールのためだろうか。そういえば46メソッドで湯数によって甘さを引き出すという説明があったが、それも納得ができてくるか。